夜におやすみなさい2019.11.11-2020.11.11 天幕がひかりの境界をなぞる 海はだれかの祈りの残滓 夏の群れを星座にしていく 琥珀の海に満ちた天体 水晶でできた羽が揺れている 太陽の角のあたたかいこと 水底は明けない夜にいつまでも 火のいろをした夜があって くらやみに灰をうむ まぼろしの眠りを月が透かす 破れかけた群青片 くらがりのまなざしは疵を見出す 繊細の浅瀬でずっと 背骨に閉ざされる銀河 まぶたの火は階列をなす あなたは冬を結んでいくだけ うつくしいゆめだけここにおいていく とっくに呼吸をわすれている 生きるたび胸のうちの春が咲く あなたは名前のない季節 「前世はきみが結晶だった」 この身体のどこにでもつけられる痕 択ばれた夜をまぶたにかくす さびついた冬は愚かさの群れ いつかここは雨になる とうめいな爪、夜だけの信仰 視界に夏の陽がまじる 傷をつれていけばその国へゆける なだらかな宇宙をなぞるように あなたにだけみつけられないβ 名もないまぼろしのやわらかいところ 星の燃える音がぱちぱちと 満たすための熱でありつづける どの茨もきみはたやすく触れてゆく 砕かれた光芒はゆめ、つき、いろ 色彩はまつげを縁から満たしてゆく きみだけがただしいまじない まぼろしを漕いで月を仰ぐ 水面をさがして惑う夜明け くらやみと同質の水晶体 春とは音のないまぼろしのこと 何光年先の海でまっている 胸の中に灰色の水 うつくしくない冬なんてやめて その足首に絶え間ない夜を見る 幻想は薄らいで、夏は見えなくなる あなたの不揃いな頬 ひかりを垂らすうつくしい指は遠く 心臓に春の火の痕 四季を生むかみさまたち この手をひいてよ天国のひと、あなたはわたしのかみさまでしょう いつかがふたりのひかりになりますように 鍵盤から潮鳴りのまほろ ひかりのあわいに喪失の色 お似合いの傷をおそろいにする いつかほんとうの日々の幕開け 劣等を左目と明け星のあいだにかくす 欠損をくりかえしくりかえしわたしになるまで 息のしかたをまちがえて百年目のよる おまえが降り積もる灰になった頃 季節がすぎてふたり透けゆく あざやかなうつくしい爪のかたち やまない青が底にたまってゆく 呼吸があなたの焔にまざる いつまでも楽園は柩に結ばれている かつてたましいは月蝕に隠した ゆうれいの輪郭が月で揺れている つめたく結ばれる偽りの庭 わたしの背骨はまだ深海のまま 胸の汀にて、かみさまのてざわり 摘まれた眩さでよるはこんなにもうつくしい ゆるされた信仰になまえを与えて うまれたてのけものが春を焦がす 季節を整えたらここは涅槃とします この雨が終われば透明になるから だれにも択ばれない夜がいつか焔になってゆく 海がやわい傷口にしみる ひかりとゆめのただしい発音 半透明の殻で朝はふさがれる 忘却の痕がただしく交わるように 「わたしはそこへ行けませんので」 愛とは喪失をゆるしあうことでしょう さよならするためにおまえがうみだす夜 ほどけない記憶を首筋にみる 銀箔のちらばる昨日、不確かな息継ぎ ゆうれいのあしもとは春の朧 うしなわれるように子どもは目を閉じた 遠ざかるひかりになれない 不正解のきらきらたちが静かにゆれる 心臓にいちばん近い終着駅をおぼえていた 結び目をほどいて、あなたがみえない みっつめの影までが夏でできている 遺伝子はあなたを魔法と定義した ゆらゆらと水母が月に還ってく 心臓の底に灼けた眸をかくす たったひとりの余白をください しらない音色が胸に棲んでいる 対岸の水晶に止まない星座をそそぐ ひかりの真反対に匿っている鯨 からっぽの春、月暈の再来 篝が侵食してゆく皮膚 あかるいよるにずっと踊ってあげる いつか愛は睫毛の隙間からこぼれていってしまう 海底のパレードはひかりを呼んでいる だれもこの雨を冠にできません あなたがわたしを傷にしたんでしょう 遠いよるだけ択んでいくひと きえないゆめで花占いしよう 鳴り止まないひかりのなかは春 すべての記憶ひとつひとつを積み上げては崩すように 愛をもっとも遠い言語であらわして 砂糖菓子にふゆがかくれていた 肋骨のかげにしらない宇宙 月がなくともあなたをここで待っていること いくつもの呼吸音でおどる/すりぬけていく色彩たち わたしたち夏の記憶のままふたりで またたきひとつせず連星はかみさまのものになる やさしさはふるぼけたまま手のひらのなか 雨音がうつらない目を信仰している おわりをあたえられたよるが等しくひかること ノヴァ・エフェメル・ビオトープ もう愛をつたえる呪文は途絶えた 無垢を冠したおはなしをとじる その名前をどうかを忘れてしまって ながいあいだひとりで綻んでいた ここではないどこかの春に雨が降る われた鏡でついてしまった傷のこと さよならのかわりに来世の呪い 海も火もあるのにできないでいる心中 ひかりの発音ができないあの子の星がいちばん近いこと 氷から灰がうまれあなたを呼んでいる ふたりであった季節が繰り返されてゆく 色彩の焔、かみさまのからだ 夜のかたがわの記憶はいつまでも揃わない 再生凍雨 ばらばらなってゆく幸福に熱があったこと うつくしくないさみしさが行方知れず Repeat your only heaven どの嘘が剥がれたかなんてもうわからないよ 朝、陽だまりを抱いていた月 貝殻から流星群の音色 ふたりまぼろしのふわふわになろう あたらしい光でできた春をまぶたでおぼえていた 失わないよう埋めた六等星 あなたのための四肢/海を構成するひとつになる ただ泣くための理由がほしいひと 代わりにわたしが悪夢になります とうめいな扉をひらいて月の裏側がみえる頃 喪失を目指した物語が終わる おちてゆく星がいつまでも掴めないまま この鎖は星座線の重さと等しい 「永遠はいつだってかたちをなくしている」 何万回目の魔法を浴びてぼくら朝になる 目印の傷をあげる やさしいけもののねむりを妨げないように ただしいぬくもり/春雷はいまだ果てに たとえばかなしさが降りゆくものだとしたら 喪失が横たわりせつなさが群れをなし、それでもあなたがいたということ きんいろのひだまりが水面をとかしていく 盲目の夢をみている 走馬灯の傷つけられたところ たくさんある星々のひとつもあなたのために存在しない 月のふね、肋骨の裂傷 ゆりかごのように愛は満ちている ゆびさきからひかりが剥離する あなたのやわい頬に浸水の痕 逆光でみえなくなった夏へ 火も海もなにもかもただしい夜 夜明け/折りたたまれていくパレード 巡礼・消光・流線型 うしなわれし融点 あなたがうたうポラリスのゆめ わたしのための音階を均して ちりばめられたまほろも砕かれた硝子も 目眩のようなさいわいがこの胸のすべて いつかあなたが灰を埋めるまで やらかい胎をふたりでほどいた 「やさしいひとはもういません」 惑星冬眠 発光するはなびらを飲んで ひとりただ永続している きらきらを支配するものたちよ 幸福があったということ/かけらを摘んで 名のある亡失をただ見送った ランドルト環で踊る日々へ 「あなたのまなざしは七月の海」 手をひいてくれるならまぼろしでもなんでもよかった 天国ではきっと逢えますように 消えないインクはあおいいろ わたしのことをいちばん遠くにおいていきなさい ジャム壜ひとつぶんのさみしさだけが まなじりに愛を与えただけ 火に似ている祈りがまばゆく 愛の代わりに春をちょうだい ざらざらと肋骨が傷つけられるような あなたはどこへ行っても海になる 盲目、太陽のなかに隠れている 叩けないとびらは雪の中 Universe for just one person 朝がいつまでもやさしいかたちであるように おそろいのりぼんで卵をくるむ 「真珠がオーロラを生んでいるの」 永遠の透度がいつか0になるときにあなたを迎えにいくね 仄めくあわいに呪いがひとつ ながいよるから夢が去って みずにかたちを、祈りに赦しを 月へゆく道にふたりがいたこと 銀がにじんだ欠片をのんでしまって この肌に天国をつくっておくれ 誰そ彼の幼生 わたしは綻んでいる/prayer ゆがんだ春の先で 失くした針が燃えている あなたには救えない雨もある 幸福論は虹、ゆめ、星の乱反射 尊びの温度/ここが私の寄る辺だった 星座がひかるのをとめられないまま 行き先のないままおもひでだけが残る まぶたは常闇のふね かなしいまま行方不明になってしまえ 環にいるから共鳴できるよ いつかの概念はわたしたちにいらないね 不可視の夏と深遠の来世 生まれるとき膚の裏をとおってきた 「火になるゆめをみていました」 ただしい終わりで幕は閉じる きみのいないことをなんと喩えても降る花びらが全部消してく 群生する天国のひとつだったね 「ただいまっていって起こして」 おまえは煙になって夜を溶かす うしなうことを択ぶだけ 群星にほんとうのひかりがひとつある まなざしのさきのきみのふね ふたりの心臓はここにある 月のいろだと偽ったこども まぶたに流星の残滓をみる みえない呪文ときこえない言祝ぎ あしもとのない場所で息継ぎした夜明けまえ うしなえば私はただの概念になる 皮膚をあたえること、太陽を隠してしまうこと 泥濘であなたが堆積しているように たくさんの星が流れている日々 ひかりの遠いことを永遠と呼んで くらやみと火のすべて 意味をなさない音階の群れ 雪盲のかみさまたち 虹、呼吸、月の庭 ふれたところに潮騒の色 きれいなだけの不在をなでて 真夜中の端にリボンをかける あなたはまほろの季節に棲んでいる 行方不明の終幕たちよ あなたのことを傷にした夜がまた 鼓動はせせらぎに似ていたね ゆがんだ夏のそばに陽のかけら ふたりまじわれない灰のゆめ 生まれたばかりのフラワーシャワー 足首に夜半のあと 「いつまでも泣けないままでいようね」 熱だけとおす紗幕のなかで やわい輪郭だけ朝を迎えている 注ぎゆく春の真白 戻れないほうに亡失のかんむり ひとりとひとり/雨と祈る おまえは火を火として与える 天国に降る雨はぬるい この膜はゆっくりとうしなわれていくだけ 頬にしるしのような欠け ワルツ・秒針・てんしのめ まどわすためのまなざしのきらきら 胸のところにかわりのガラス まぼろしはすみよく、うつつのにほひがする 孤独は満たすように積まれてく さよならは剥がれとけ落ちる 季節はただ天国を通りすぎて よるのかたちをしらない/you can't feel polaris 結晶質のからだをみつめる かつての瑕疵はおもかげのなか 蝕は階列をなぞりゆく いくつかのページをめくったさきの永遠 みずたまりを残してはいなくなる あなたは銀のいろを択ぶ 劣化したほね、てんしのわ 過去か未来に出逢っていたね ぼやけたままの心臓が再生する すりきれた祝福を抱いて 朝には燃え殻の祈りたち 深海でねむっていたくじらの頃 「その真綿がわたしです」 ていねいなぬくもりを再生する 失われるくらいわけもない夜 わたしが地平線になってあげる ぼくらはあした呼吸をおぼえる からだのすみずみに透明を飼っている うまれる/春/月の瞳 あの日の心拍が鳴りやまない 雨は等しく降りかかるというけれど さびしいなんてかたちにならないでよ おまえがいちばんうつくしい骨 ぐしゃぐしゃの灰を抱えた フィルムの音が鼓膜にまつわる ぬるいだけの夏を泳ぐ 残響/てのひらにはいつかの季節 花は咲けどもあなたはいない、おんなじゆめをみてるだけ 抱えた火がひらひらと剥がれてく わたしの海に名は与えない 脆いだけの明け方のゆめ いきものはゆっくりと環をなぞる ひびわれのプリズムで傷つける わたしの盲目にひかりをつけて まぶたを綴る指先の透明よ 月の周波はどこまでも響いてく ねむるあなたは春を待たない さよならはいつだって正しさのことだった からだにながれるもの・爪のいろは真昼のニワトコ 虹なのそれとも流れ星なの 楽園のワルツを手ほどく ぼくらこの世の切符をなくしてしまった 空白だからぜんぶで満たしてほしかった 火でもけものでもない概念 朝の気配をはらんだ光 繭・ずっとぐずぐずのからだたち ふゆはあなたがいきるための季節です 皮膚とおんがくの匂い 水槽でおまえの目が明滅している よるは深く、呼吸のおと 微かにそれは魔法めいて 素肌できのうの痕が発光する 原初、わたしたちはおなじ細胞のなか 穿つ/星影/ふねはひとつ 鉄をはらんだからだは音も無く 列車の窓はとうに開け放たれている それではまたくらやみにて/銀幕の名残 乳白の星星が舌に群れる もう二度と逢えないまま水平線をたどる 片方には天国が結んである 昨日のことはまぼろしでもよかった 証明みたいな冠のかたち 焔があればそれでぜんぶおしまいだった 夏は暈されもどらないまま まっしろのおにわにふたり オリオン・プラットホーム 深海ではだれもみな21g 連続する境界をあいまいにただす あなただけいれば春は終われたのに 海へむかうふたりにえいえんの色彩 錆びかけたまなうらをみつけて あなたのせいでほころびのあるやさしさを見失う ばらばらのからだに熱の所在 光、光り、ひかりを抱いている おまえだけとの世界にゆるしあう皮膚 あの庭でわたしたちが埋めた幻想 あとすこしのところで巡り会えない運命もある さいはて、これっきりの淡い水 遠くあるさいわいに花の痕 終わりのない月はきんいろ 見えないだけのあなたが此処にいる 真水にふねがたゆたうことを赦して 朝靄のように冬はつもってゆく あなたの欠けを埋めるものすべてになりたかった くゆる糸/夜半はかけらの跡 ゆるやかにまほろは薄らいで 花束をむすぶための言語 金色のボタンと夜の染み ながれる光はゆびさきの疵 「新月を証明するために泣いてるの」